虚への抵抗

激震は幻か?!

 夢から覚めるように瞼をゆっくりと開くと目の前の薄暗い現実が急速に迫り来る。背中を一滴の汗がしたたり落ちると同時に意識が一気に覚醒した。

 空気が薄いらしく呼吸が荒いことに気がつくと右腕全体にシビレが走り身体が硬直する!

 再び意識が遠のくが、かろうじて自分を取り留める。そしてどうしようもない自分の運命を直視せねばならなかった。そう、"死"をわずかながら意識した。俺は気づいていた、虚無という悪魔に侵されていることを。ゆっくりと、しかし確実に虚無が忍び寄る。俺は逃げなければならなかった。

 どうにか動かすことができる左腕を大きく振り払い向こうへ押しのける素振りをして見せた。しかし、それは無駄なことだと分かっていた。現にこの右腕が徐々に炭化し始めていたのだ。指先から徐々に、乾いた音をたてながら肘へと上がってきていた。

 俺は最後の力を振り絞り、重い頭を起こして周りを見まわした。奇跡か、瓦礫の隙間に一筋の光を見つけることができた。そして、その光の差し示された天空の一点を見上げると星のようにまたたいて、俺を照らし始めた。まぎれもない。それは死の誘いであった。

 「いや、俺は死ぬわけにはいかない。これは幻なのだ。幻想にだまされてはいけない。自分を取り戻せ。取り戻せ!」

 仮想世界は虚無に侵されている。本来の楽しみから逸脱した、暗黒の思想に支配されている。われわれ人間は現実と仮想のはざまで自分の肉体と精神を大きく分離していった。こうして一人歩きを始めた精神は無限な物体のように膨張を始め唯物論者の人格へと成り上がり仮想世界を横暴して虚構を押し付け、また流布する。こうして人間の無垢な精神を暗黒へと陥れていった。

 朽ちた精神を回復すべく、いま、決断をせねばならない。この現状に反駁の怒りを示さねば取り返しのつかないことになってしまう。いや、この試みは幻に終わるかもしれない。

 しかし結果を恐れずに、一筋の光をこの暗黒の世界へ差し伸べなければならない。そう、それが俺の使命。

 死をも恐れない強靭な魂をささげねばならない。まずは自分が冷静になって、この状況を見つめよう。そして今、俺は静かに目を閉じる。

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